Madame Curie(2) [読書・美術]
Madam Curie エーヴ・キュリー著 河野万里子訳 より
実験に思わしい結果が出ないと、マリーは不幸に打ちのめされたようになった。 背中を丸めていすにすわり、うで組みをしてうつろな目をし、急に田舎の老婆になったかのように見える。 なにか大きな不幸のために、嘆いて口もきかなくなった老婆のように。 研究員たちはそんなようすに気づくと、事故か、なにかとんでもないことでも起きたのかと思い、どうしたんですかとたずねる。 するとマリーは沈うつに、すべてをひとことにして言う。「アクチニウムXを沈殿させることができなかったんです・・・・・」 公然と敵を非難することもあった。 「ポロニウムがわたしをきらっているんです」
だがうまくいくと、心も軽く、うきうきする。 そうして元気いっぱい庭に出て、バラにも菩提樹にも太陽にも、「とっても幸せ!」と言ってまわりたいかのようだ。 科学と仲直りをし、すぐに笑いだしたり感嘆したりする。
半世紀以上前に家を飛び出し、米国に渡ってユダヤ系ポーランド人と結婚した叔母がいる。
その叔母が今年米国で生涯を終えた。
米国で散骨され、日本に帰ることのなかった叔母の遺品を整理していたら、古びた本の中から、子どもの描いた絵が出てきた。
疾走する少女の絵。
描いたのは叔母。
本は「キュリー夫人伝」だった。
図書館で新しい訳本を借りて読んだ。
あの絵を見なかったら、死ぬまで読むことなく終わるところだった。
読むことができて本当によかった。
実験に思わしい結果が出ないと、マリーは不幸に打ちのめされたようになった。 背中を丸めていすにすわり、うで組みをしてうつろな目をし、急に田舎の老婆になったかのように見える。 なにか大きな不幸のために、嘆いて口もきかなくなった老婆のように。 研究員たちはそんなようすに気づくと、事故か、なにかとんでもないことでも起きたのかと思い、どうしたんですかとたずねる。 するとマリーは沈うつに、すべてをひとことにして言う。「アクチニウムXを沈殿させることができなかったんです・・・・・」 公然と敵を非難することもあった。 「ポロニウムがわたしをきらっているんです」
だがうまくいくと、心も軽く、うきうきする。 そうして元気いっぱい庭に出て、バラにも菩提樹にも太陽にも、「とっても幸せ!」と言ってまわりたいかのようだ。 科学と仲直りをし、すぐに笑いだしたり感嘆したりする。
半世紀以上前に家を飛び出し、米国に渡ってユダヤ系ポーランド人と結婚した叔母がいる。
その叔母が今年米国で生涯を終えた。
米国で散骨され、日本に帰ることのなかった叔母の遺品を整理していたら、古びた本の中から、子どもの描いた絵が出てきた。
疾走する少女の絵。
描いたのは叔母。
本は「キュリー夫人伝」だった。
図書館で新しい訳本を借りて読んだ。
あの絵を見なかったら、死ぬまで読むことなく終わるところだった。
読むことができて本当によかった。